こどもを近視から守るために

今年、大阪で日本近視学会が開催されました。
講演で、とくに問題になっていたのは、近視の爆発的とも言える増加です。
現時点で医学的に正しいと思われていることを要約してお伝えいたします。
なお、さまざまな研究が進められており、お話しする内容の一部は将来変わっていく可能性があります。

近視の学童が増えています
ある調査では、6歳の児童の近視は1999年は10%でしたが、20年後の2019年には60%に増加しました。
また、12歳では60%だったものが、95%に増加しました。
さらに、コロナ禍以降この傾向はさらに強くなり、「近視パンデミック」と言われています。

近視になると失明につながる目の病気を発症する危険性が増えます
中等度近視の場合
 緑内障 4倍、 網膜剥離 9倍、 近視性黄斑変性症 10倍
強度近視の場合
 緑内障 14倍、網膜剝離 22倍、近視性黄斑変性症 41倍

近視が進行しやすい時期
幼稚園児から小・中学生が進行しやすい時期で、低学年で発症するほど1年間の近視進行量が多いため、将来強い度数の近視になります。

将来近視を発症する危険性の高い児童とは
近い将来に近視になる可能性が高い児童は、6歳から10歳では軽度の遠視(近視の反対)でも、11歳では正視(正常)でも、近視発症のリスクが高いことがわかっています。
これらの児童は通常視力検査では1.0以上あると思われます。
すなわち、学校の視力検査がA判定の異常なしとされていても、将来近視を発症する可能性が高いかもしれないということです。
これに該当するかは眼科で検査することができます。

近視になることの予防や、近視になった場合今後の進行を抑制するために、現時点で考えられていること

① 近くを見る時間を減らすこと。とくに長時間連続して近くを見ると近視が進行しやすい
20分間近くを見たら20秒間20フィート(6メートル)以上遠くを見ると良いとされています(20-20-20ルール)。
また、パソコン、タブレット、スマホ等のデジタル画面は、テレビに接続して離して見たほうが近視の進行量がはるかに少なくなります。

② 1日2時間以上屋外にいる児童の方が近視の進行が遅い
台湾では小学生の屋外時間の増加を法律で義務化し、近視が6%減りました。
屋外にいれば遠くを見るので当然だろうと思われていましたが、そうではなく、太陽光が近視の進行を抑制することがわかってきました。
帽子をかぶっていても、日陰にいても、近視抑制に十分な光量が目に入ることがわかっています。

参考:日本眼科医会作成YouTube「ギガっこデジたん 進む近視をなんとかしよう大作戦」


             <近視進行予防のQ&A>

Q 「近くを見る時は30cm以上見る距離をとって、正しい姿勢で見ると目に良い」は本当?
A 本当です。とくに20cmが両目で見えるギリギリとされていますので、これより近いと目が疲れやすいです。
また近視も、近くで見るほど進行しやすいと考えられています。

Q スマホやゲームを見ると近視が進む理由は?
A 近視に関しては、スマホやゲームのデジタル画面そのものが悪いのではないと考えられています。
デジタル画面とくに手持ちの物では見る距離が近くなりすぎるので、近視が進行すると考えられています。
また、20cm以下で見ると目が内側に寄って戻らなくなるいわゆるスマホ内斜視になる可能性があります。しかし、近視に関係しなくても、デジタル画面は、強い光を近くで見ることで、長期に渡ると将来網膜に障害を起こす危険性が指摘されています。

Q 「読書は明るい部屋でする方が目に良い」は本当?
A 部屋が明るい方が近視化が抑制される可能性が研究結果で報告されています。

Q めがねは弱めに合わせた方が近視が進みにくい?
A 以前はそのように考えられていました。
しかし、現在では、強すぎるのはよくありませんが、良く見えるようにしても、それによって近視が進むということはないとされています。

Q 諸外国の近視対策は?
A 国際的には、世界保健機関(WHO)は5歳未満の子供にデジタル機器の制限基準を設け、1日2時間を超える使用は精神発育に有害であると提起しました。
国レベルでは、欧米では、デジタル機器の使用を規制して、幼児は1時間以内、学童青年期は2時間以内の使用にとどめるよう指示しています。
アジアでは、台湾でさまざまな近視予防対策の他に学校での屋外活動時間を確保し、6%近視が減少しました。中国では、最も具体的で迅速な対応が行われています。
シンガポールでは国立眼科センターおよびシンガポール眼科研究所が世界的な大企業と共同研究が行い、アジア太平洋最大の眼科研究機関の一つとなり、世界初の近視センターが設立されています。日本は国として対策していないほぼ唯一の国と言われています。
近視が増えると、失明原因第一の緑内障を始め、網膜剥離など失明につながる目の病気が増えます。
諸外国が国策として近視対策をしているのは、国民を失明から守るためです。











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